「わからない」と言えるようになるまで
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2021年10月、私はChrome DevToolsチームで新しい役職に就きました。DevToolsのパフォーマンストゥーリングチームの技術リーダー(TL)として、主にウェブサイトのパフォーマンス関連を担当することになりました。特に注目されているのが、Performanceパネルです。
新しい役割への挑戦
この役割に至るまでの道のりは、その1年前に始まりました。私は「Performance Insights」という新しいパネルを構築するよう依頼され、初めてChromeのトレースファイルと向き合うことになったのです。これらのトレースファイルは、Chromeがトレース実行時に生成する膨大なJSONデータで、DevToolsのパネルに表示される情報が含まれています。これらはLighthouseやWebPageTestのようなツールでも使われているデータです。
パフォーマンスに関する知識が足りないと感じることもありましたが、チームの一員として、わからないことは率直にマネージャー(当時のチームのTL)に伝え、ビデオ通話で指導を受けていました。HTMLのCanvas APIさえ使ったことがなかったので、それを学びつつ、パフォーマンストレースの詳細を把握していったのです。
TLとしての「知らない」の難しさ
やがて私がTLに昇進したとき、状況が一変しました。今度は他のメンバーが私に質問してくる立場になったのです。TLとしての初日に、ある人からトレースの特定のイベントがどのように表現されているのか尋ねられました。正直なところ、私は答えを知りませんでした。TLである自分が「知らない」と言うのは恥ずかしく感じ、今の役職にふさわしくないとさえ思いました。
しかし、実際には、そんな心配は杞憂に過ぎませんでした。「知らない」と認めることを受け入れ、知らないことをどうやって調べるかに焦点を当てることにしたのです。30分ほどかけてトレースファイルを読み込んでデータの関連性を理解することもあれば、古い設計ドキュメントや関連資料を調べて解答を見つけることもあります。そして、ときには他の専門家にメールを送って尋ねることもしました。
助けを求めることで得たもの
この「わからない」と言う姿勢をとることで、新たな出会いや知識を得ることができました。ある相手からは「好奇心を持って質問してくれてありがとう」と感謝の言葉をもらうこともあり、普段関わることのない人たちと世界中でつながることができました。
TLとしての真の価値
「知らない」と言えるようになること、「知らないけれど、○○に聞けばわかると思う」、「今はわからないが、調べてお知らせします」と答える力は、私にとって非常に重要なツールになりました。TLとしての仕事はすべてを知ることではなく、知識のギャップを埋め、チーム全体の生産性を向上させることにあると気づいたのです。
まとめ
リーダーとしての役割は、メンバーの質問にすべて答えることではありません。わからないことがあってもそれを認め、積極的に学び、適切な人に助けを求めることこそが、チームを成長させるための真の価値なのです。